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東京地方裁判所 平成7年(ワ)17519号 判決 1996年8月26日

原告(反訴被告) 高木定雄

右訴訟代理人弁護士 虎頭昭夫

被告(反訴原告) 株式会社常陽銀行

右代表者代表取締役 西野虎之介

右訴訟代理人弁護士 海老原元彦

廣田寿徳

山田忠

主文

一  原告(反訴被告)の本訴請求を棄却する。

二  被告(反訴原告)の反訴請求を棄却する。

三  訴訟費用は、本訴反訴を通じて被告(反訴原告)の負担とする。

事実及び理由

以下、原告(反訴被告)を原告と、被告(反訴原告)を被告という。

第一請求

一  本訴請求

被告は原告に対し、二〇〇万円及びこれに対する平成七年九月一九日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴請求

原告は被告に対し、四〇四三万一七七五円及び内金三八一六万七三二一円に対する平成八年六月二五日から完済まで年一四パーセントの割合(ただし一年を三六五日とする日割計算)による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告がその経営していた訴外会社の代表取締役であった時代に、訴外会社と被告との銀行取引から生ずる債務についてした連帯保証契約が、原告が代表取締役から退くに際して解除されたか否かが争点であり、原告は、連帯保証契約が解除されたにも関わらず、被告が原告の連帯保証債務の存在を主張して原告所有の不動産に仮差押えをしたことが不法行為に該当するとして慰謝料の請求をし(本訴請求)、被告は、右連帯保証債務の履行請求をする(反訴請求)事案である。

争点1 連帯保証契約が解除されたか。

争点2 被告の仮差押えが不法行為に該当するか。

一  当事者間に争いのない事実

1  昭和四一年一〇月二八日、原告は繊維製品、毛皮類の販売等を目的とする訴外八重洲商事株式会社(以下「訴外会社」という。)を設立し、同日、その代表取締役に就任した。訴外会社は、同年一一月ころ被告堀留支店との間で銀行取引を開始し、原告は訴外会社の被告に対する債務について連帯して保証した。

2  昭和五〇年三月三一日、訴外会社は被告に対し再度銀行取引約定書を提出するとともに、原告は訴外会社の被告に対する債務について連帯保証した(以下「本件連帯保証」という。)。

3  昭和五八年二月一五日、原告は、訴外会社の被告に対する債務を担保するために、原告の所有する別紙物件目録≪省略≫(一)記載の土地、建物(以下「本件不動産」という。)について、極度額三六〇〇万円の根抵当権を設定し、同年二月一六日受付でその旨の登記がなされた(以下「本件根抵当権」という。その後昭和六二年九月二六日受付で極度額が五〇〇〇万円に変更された。)。

4(一)  平成元年二月ころ、原告は、訴外会社の担当であった被告堀留支店貸付係の大録国行(以下「大録」という。)に対し、訴外会社の代表取締役の地位を井野一治(以下「井野」という。)に譲るつもりであることを告げ、井野が新たに連帯保証をし、井野の自宅を担保に入れるので、原告については連帯保証を解除し、本件根抵当権も抹消して貰いたいと申し入れた。

(二)  平成元年二月二三日、原告と井野は被告堀留支店に行き、井野の自宅(別紙物件目録(二)記載の建物)を担保に入れることについて、大録と協議した。

(三)  しかし右建物の底地が借地であったことから、被告の内部基準では右建物に担保権を設定することができないことが判明したため、被告堀留支店の鈴木課長(以下「鈴木」という。)は、原告に対し、同年三月一四日、根抵当権の抹消は待って欲しい旨述べた。これに対して、原告は、引退と同時にピリオドを打ちたいので、連帯保証を解除し、根抵当権も抹消してほしいと述べて被告の再考を促した。

(四)  同年三月二三日、鈴木課長は、訴外会社を訪れ、重ねて本件不動産の担保差入れを継続してもらいたいと申入れた。これに対して、原告は、これを拒絶し、三月中に被告の結論を出すよう求め、交渉が決裂したら取引金融機関を変更することをほのめかした。

5  平成元年五月二五日、訴外会社は代表取締役を原告から井野に変更する旨の登記手続を行い、被告は、同年六月五日、本件根抵当権につき抹消登記手続を行った。

二  争点に関する双方の主張

1  争点1について

(一) 原告

前記4(四)の経緯の後、同年三月三〇日、鈴木と大録が訴外会社の事務所を訪れ、原告に対して、「高木さんの言うとおりにします。」と述べて、原告の連帯保証の解除と本件根抵当権を抹消することを承諾し、引き続き訴外会社と銀行取引を継続することを合意した。

(二) 被告

前記4(四)記載の経過の後、被告は、当時訴外会社が堅実な経営をしていたため、優良な取引先と認識しており、今後も取引を継続していきたいと考えていたことから、ある程度の譲歩もやむを得ないと判断し、本件連帯保証は継続するが、本件根抵当権の抹消には応じることにした。被告は、原告が本件連帯保証契約を継続するからこそ根抵当権の解除に応じたのであり、原告も本件連帯保証契約が継続することに合意していたのである。

2  争点2について

(一) 原告

(1) 平成六年八月二六日、被告は原告に対し本件不動産を再び担保に入れることを要請したことがあったが原告はこれを断った。

(2) 訴外会社は平成七年五月一五日及び二二日に不渡りを出して倒産した。

(3) 被告が原告に対し、平成七年六月一日付請求書で保証債務の履行を求めたので、原告は、同年六月八日付回答書で本件保証債務は既に消滅している旨の回答を行い、また平成七年七月一三日付回答書でも再度原告の保証債務は消滅している旨の回答を行った上、被告堀留支店長村上達也に対して原告に対する請求は不当である旨指摘した。

(4) 同年七月二〇日、被告堀留支店の岩波徹男、岡本拓巳が原告宅を訪れた。原告は右両名に対し、原告の連帯保証債務が消滅した経緯について説明した。

(5) それにも関わらず、被告は、水戸地方裁判所に対して本件不動産の仮差押を申し立て(同裁判所同年(ヨ)第一一六号)、同年八月三日、その旨の決定を得て、同月四日その旨の登記がなされた。

(6) 右仮差押は、原告の連帯保証債務が消滅していることを認識しながら債権回収を図るためになされた違法なものであり、あたかも原告が支払うべき債務も支払わずに逃れようとしている不誠実な人物であるとの印象を与えるもので、原告の人格と名誉を著しく傷つけるものであり、これにより原告は多大な精神的苦痛を被った。

右精神的苦痛に対する慰謝料は金二〇〇万円を下らない。

よって原告は被告に対し、慰謝料二〇〇万円及びこれに対する不法行為の後である平成七年九月一九日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

(二) 被告

争点2に関する原告の主張(一)ないし(五)の事実は認める。

連帯保証契約が継続していることは前述のとおりであり、被告は原告に対して3記載の保証債務履行請求権を有しており、仮差押えは適法である。

3  反訴請求原因

(一) 被告及び訴外会社は、昭和五〇年三月三一日、左記のとおりの約定で銀行取引を行うことを合意した。

適用範囲 手形貸付、手形割引、当座貸越、支払承諾、外国為替その他一切の取引に関して生じた債務の履行

損害金 年一四パーセント(ただし一年を三六五日とする日割り計算)

期限の利益喪失 訴外会社が手形交換所の取引停止処分を受けたときは、当然期限の利益を失う。

(二) 被告は訴外会社に対し、左記の約定にて左記の金員を手形貸付の方法により貸し付けた。

(1) 金額 一三三八万一五六六円

貸付日 平成七年四月二七日

期日  平成七年五月二六日

(2) 金額 三〇〇〇万円

貸付日 平成七年四月二七日

期日  平成七年五月二六日

(三) 被告は訴外会社に対し、平成五年三月一二日付金銭消費貸借契約書にて、同日付で八〇〇万円を以下の約定により貸し付けた。

弁済方法 平成五年一〇月一二日を初回として、以後毎月一二日限り一四万八〇〇〇円(ただし最終回は一五万六〇〇〇円)を分割して支払う。

利率   年六・七五パーセント(ただし一年を三六五日とする日割計算)

利払方法 借入と同時に平成五年四月一二日分まで前払い、以後毎月一二日に向こう一か月分を前払い。

(四)(1) 被告は、訴外会社に対し、平成三年七月一〇日付で、以下の約定により当座貸越にて金銭を貸し付ける旨合意した。

契約極度 二〇〇〇万円

利率   年八・一パーセント

契約期限 平成五年七月一〇日

期限の延長 契約期限満了の一か月前までに当事者の一方から別段の意思表示ない場合には、契約期限を二年間延長する。

即時支払 訴外会社が手形交換所の取引停止処分を受けたときは、直ちに元利金を支払う。

(2) 被告は、訴外会社に対し、右約定に従い、左記の各日付にて左記金員を貸し付けた。

① 平成三年七月一〇日 一〇〇〇万円

② 平成三年七月一九日 一〇〇〇万円

(五) 訴外会社は、被告に対し、平成七年五月一二日までに次のとおり支払をした。

(1) 前記(二)(1)の債務について

元金の内金四四六万四二四五円及び平成七年五月二六日までの利息

(2) 前記(二)(2)の債務について

平成七年五月二六日までの利息

(3) 前記(三)の債務について

元金の内金二九六万円及び平成七年六月一二日までの利息

(4) 前記(四)の債務について

平成七年五月七日までの利息

(六) 訴外会社は平成七年五月二五日に東京手形交換所において、取引停止処分を受け、期限の利益を喪失した。

(七) 東京都信用保証協会は、原告に対し、平成七年九月二二日、訴外会社の債務につき、次のとおり代位弁済をした。

(1) 前記(三)の債務につき

残元本 五〇四万円

遅延損害金内金 三万〇四四七円

(2) 前記(四)の債務につき

残元本 二〇〇〇万円

遅延損害金内金 一九万二三二八円

(八) 井野は、(二)(1)の元本につき、別紙内入弁済表≪省略≫記載のとおり弁済をした。

(九) よって原告は被告に対し、連帯保証契約に基づき、貸付元金残額合計三八一六万七三二一円及びこれに対する平成八年六月二四日までの確定遅延損害金及び右元金に対する平成八年六月二五日から完済まで年一四パーセント(一年を三六五日とする日割計算)の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第三当裁判所の判断

一  争点1(本件連帯保証契約の解除の有無)について

1  前記争いのない事実、原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる≪証拠省略≫、証人大録国行の証言により真正に成立したと認められる≪証拠省略≫、証人大録国行の証言及び原告本人の尋問の結果によれば次の事実が認められる。

(一) 平成元年一月ころ、原告は、自分が老齢となったことや昭和の時代が終わったことから、訴外会社の代表取締役を退任して代表取締役の地位を娘婿である井野に譲ることを決意した。

退任にあたっては今後訴外会社と被告との間の銀行取引によって生ずる債務を井野に連帯保証させ、井野の自宅に根抵当権を設定して、原告の本件連帯保証及び本件不動産に設定されていた本件根抵当権を解除しようと考えた。

そこで原告は、平成元年二月ころ、被告堀留支店の訴外会社の担当者であった大録に対し、代表取締役を井野に譲ることを告げ、井野が連帯保証人となり、井野の自宅を担保に入れるので、原告については連帯保証を解除し、本件根抵当権も抹消して貰いたいと申し入れた。

(二) ところが、井野の自宅が借地上にあり、当時の被告の内部基準では右建物に担保権を設定することができないことが判明したため、被告堀留支店の融資課長である鈴木は原告に対し、同年三月一四日、根抵当権の抹消は待って欲しい旨述べた。これに対して、原告は、引退と同時にピリオドを打ちたいので、連帯保証を解除し、根抵当権も抹消してほしいと述べて被告の再考を促した。

(三) 同年三月二三日、鈴木課長は、訴外会社を訪れ、重ねて本件不動産の担保差入れを継続してもらいたいと申入れた。しかし、原告は右根抵当権と本件連帯保証を解約しないのならば、訴外会社の取引銀行を変更して被告との取引を解消することも辞さないと告げて、三月中に被告の結論を出すよう求めて被告の再考を迫った。

実際、当時訴外会社は経営が安定しており、被告に対する預金額が負債額を上回っており、訴外芝信用金庫にも一〇〇〇万円以上の預金があったことから、原告としては右要求が通らないときは、金融機関を変更しても良いと考えており、また、芝信用金庫からは取引金融機関の変更の引き合いも存在した。

(四) 右のとおり、訴外会社は小規模ながら原告の堅実な経営姿勢のおかげで経営が安定しており、被告堀留支店にとっても優良な中堅取引先であり、同支店も訴外会社との取引を続けていきたいと考えていた。そして、原告から井野に代表取締役が交代した後もしばらくは原告が会長として経営指導を行うことが見込まれていて、将来訴外会社の経営が危うくなり現実に被告の債権の回収を計らなければならない事態が生じることは当時としては容易に想定し難い状況にあった。このため被告は、原告の要求を容れて根抵当権設定登記の抹消と本件連帯保証契約の解除に応じても、新たに井野の連帯保証を取り付ければ債権の保全に支障を生ずることはないと判断した。

(五) そこで平成元年三月三〇日、大録と鈴木は訴外会社の事務所に赴き、「高木さんの言うとおりにします。」と述べて、原告の申し出を容れて原告の根抵当権設定登記の抹消と本件連帯保証契約の解除に応じることを承諾した。

(六) 原告は平成元年五月二二日に代表取締役を退任して井野が代表取締役に就任し、同月二五日にその旨の登記がなされ、右同日井野が被告に対して連帯保証契約書を差し入れ、同年六月五日、本件根抵当権設定登記が抹消された(原因同月二日解除)。

2  右認定に対し、証人大録は、原告の本件連帯保証を継続することを前提に本件不動産の根抵当権を解除したのであって、原告の連帯保証を継続することができないのであれば、訴外会社が被告から他の金融機関に取引先を変更することになってもやむを得ないと考えており、原告に対してもその旨を告げたと証言し同人の陳述書(≪証拠省略≫)及び大録が当時作成した稟議書(≪証拠省略≫)にも同様の記載がある。

しかし前掲≪証拠省略≫及び原告本人尋問の結果によれば、当時原告は本件不動産に設定されていた本件根抵当権設定登記の抹消と本件連帯保証の解除を最重要事項と考えており、原告の要望が容れられない場合には被告と取引する金融機関を替えることも辞さない強い姿勢を有していたことが認められ、前述のとおり、実際にも、訴外会社が被告との取引を清算し他の金融機関と新たに取引を始めることが可能であったのであるから、仮に被告から原告に対して根抵当権は抹消するが、連帯保証契約は継続するという譲歩案が出されたとしてもこれを原告がすんなり受け入れたとは到底考えられない。仮にこのような譲歩案が被告側から提出され、被告側が右譲歩案が受け入れられないなら訴外会社との取引を止めることになってもやむを得ないという態度で一連の交渉にあたっていたとすれば、原告、被告間の交渉は難航し、原告において金融機関を変更した可能性も十分に存するというべきである。

しかるに、証人大録の証言によれば、一連の交渉は終始和やかに進められていたことを認めることができるし、しかも前掲≪証拠省略≫(当時の原告の日記)の平成元年三月三〇日欄には、「……当方の希望通りに落着す。思ふに、これは会社の今までの実績は勿論なるも、今回の交渉に当たり、私の意思をはっきりさせて、止むを得ざれば銀行を換へる肝を以て臨んだるによるものなるべし。重要なる交渉には確乎たる肝をもって当ること肝要なり。」と記載されているのであって、右文章は、原告が自分の要求が通らなければ取引先を換えるとの確固たる態度で交渉に当たった結果、右要求をすべて被告において承諾させることができたとの満足感があふれた文章となっており、原告の希望が一部しか満たされず、連帯保証が存続する結果となったことは右日記からは到底窺うことができない。

したがって、前記認定に反する≪証拠省略≫、証人大録の証言は採用できない。なお、大録が当時、根抵当権を抹消するについて本店の決裁を得るために作成した前掲稟議書には、原告の個人保証が継続するし、新社長の井野も個人保証するので根抵当権の解除を承諾して貰いたいと記載されているが、右のような経緯からすると、被告堀留支店は、訴外会社の経営状態は問題はなく、新社長である井野の個人保証を取り付けておけば大丈夫との判断をしていたものの、本店の決裁を取得するに当たり、右決裁を得やすいような内容の稟議書の記載にしたのではないかと思われるので、右書証も前記の認定を左右しない。

3  以上の認定事実によれば、被告は、原告が訴外会社の代表取締役を退く際に、本件土地に設定された根抵当権を抹消し、連帯保証契約を解除することを承諾したというべきであり、前記のとおり、原告は平成元年五月二二日に代表取締役を退任して井野が代表取締役に就任し、同月二五日にその旨の登記がなされ、右同日井野が被告に対して連帯保証契約書を差し入れ、同年六月五日、本件根抵当権設定登記が抹消された(原因同月二日解除)のであるから、連帯保証契約も、おそくとも根抵当権設定契約が解除された同月二日までに合意により解除されたと解するのが相当である。

4  したがって、被告の反訴請求は、原告の連帯保証契約が継続していることが前提であるから、その余の点について検討するまでもなく理由がない。

二  争点2(仮差押えが不法行為に該当するか。)について

以上の通り原告の本件連帯保証契約は平成元年六月二日までに合意解除されたと認められるから、被告の原告に対する仮差押えの被担保債権である保証債務履行請求権は存在しないこととなる。このような場合、原則として被告には右仮差押えの申立に当たり過失があったものと推認されるが、申立時に被告において被保全権利の存在及び保全の必要性があると信ずるに足りる相当の理由があった場合には、当然に過失があったと言うことはできない。

本件の場合、被告の所有する書類上(≪証拠省略≫の銀行取引約定書、≪証拠省略≫の稟議書)は、原告が訴外会社の連帯保証人とされており、原告が主張する連帯保証契約の解除は口頭のことであり、当時の担当者の記憶も既に約六年前のことゆえあいまいになっていることもあり得るところであって、被告内部の調査のみによって原告の言い分をそのまま認めることは被告にとって困難であると考えられるので、仮差押えに先立ち、原告が被告に対して保証債務は消滅している旨を書面であるいは口頭で説明していたとしても(右事実は当事者間に争いがない。)、被告が被保全債権が存在すると判断して仮差押えを行うことにも相当な理由があるというべきである。また、保全の必要性については保全処分の隠密性や緊急性の要請から調査にも限度があるので、その判断に過失があるということはできない。したがって、仮差押えの申立に当たり被告に過失があるということはできない。

さらに、本件において、原告は、仮差押えに基づく損害賠償請求として慰謝料を請求しており、右仮差押えはあたかも原告が支払うべき債務も支払わずに逃れようとしている不誠実な人物であるとの印象を与えるもので、原告の人格と名誉を著しく傷つけるものであると主張するが、本件の仮差押え自体が直ちに原告の人格と名誉を著しく傷つけるものとも思えず、仮に原告に精神的苦痛が生じたとしても、原告の正当性は本件訴訟の手続の中で論証されたのであるから、右手続によって原告の損害は回復されたというべきであって、慰謝料請求を認容することはできない。

三  以上のとおり、原告の本訴請求及び被告の反訴請求とも理由がないからこれをいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法第八九条、第九二条但書を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小野憲一)

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